「お疲れ。」


「ひゃっ!」


休憩室でスマホを触っていた私の頬に、冷たい何かが当たった。


「あ、ごめん。冷たかった?」


笑いながらパックのりんごジュースを手渡してきたのは、さっきまでプレゼンしていた彼だった。


「お、お疲れさまです。ありがとうございます。…って、何でりんごジュース?」


「そりゃあ、炭酸もコーヒーもダメなおこちゃまだから?」


「おこちゃま!?そんなことないです!カフェオレは飲めますもん!」


少し食い気味に返すと、笹川さんは冗談だよ、と笑って私の頭を撫でる。


私達しかいない休憩室に、自分の心臓の音が響いてしまいそうなくらい、中から激しくノックしてくる。


「もう…からかうのはやめてください。」


赤らむ顔を隠すようにうつむいてジュースをごくりと飲む。


「ははは、紫月は本当におもしろい奴だな。」


笹川さんも手に持っていたホットコーヒーをゆっくりと口に流し込んだ。


「あ、えっと、今日のプレゼン、上手くいったみたいで良かったですね!さすがでした!」


「ありがとう。あの昭和頭の上司たちに伝わるか不安だったけど、何とか納得してもらえてほっとしたよ。」


彼は安堵の顔を浮かべ、コーヒーをすする。


「あ、そうそう。今夜プレゼンの打ち上げをするんだけど、紫月も来る?」


「えっ、私ですか?私何もしていないのに…」


「いいんだって。紫月にはいろんなとこ支えてもらったしな。遅くまで残業してたときも、『私もまだやらなきゃいけないことがあるので。』って帰るタイミング合わせてくれたり、めっちゃうっすいコーヒー出してくれたりしてたし?」


「うっすい、は余計です!」


(私が笹川さんに合わせてたというか、二人きりになれるチャンスだったし、地味で目立たない私を笹川さんの印象に残したくてやっただけなんだけどね。)


私はジュースを飲み干し、丁寧にパックを畳んだ。


「でも、本当にいいんですか?邪魔になりません?」


「大丈夫。紫月がいい奴だってこと、皆よく知ってるし。皆には俺から話しておくからさ。」


決まりな、と私の頭を撫でると、彼はオフィスに戻っていった。


私はぬくもりの残る髪に手を置きながら、心の中でガッツポーズを浮かべた。