午後の授業が終わり、放課後。
私にはあまり時間が無い。門限までに、昨日の夕飯や明日の朝ご飯、お弁当の材料を買わなければならないから。
いつも行ってるスーパーは学校から近いし安いけど、家には少しだけ距離があるから早歩きで行かないと門限に間に合わない。
頭の中で献立を組み立て、冷蔵庫の中の食材を思い浮かべながら足りない食材を買っていく。
「ありがとうございましたー」
店員の言葉を聞き流しながらスーパーを出て、早歩きで家に向かっていたら、会いたくない人間が突如視界に入った。
「…よぉ、【氷のビスク・ドール】」
そう、お昼休み、私に『希望を見失ってるような目をしている』と言った、金髪にピアスの男子。
出来れば二度と会いたくなかったのに。
しかも時間が無い今会うなんて、タイミングが悪すぎる。
「・・・嫌がらせが趣味なのかしら。そのあだ名を私が嫌ってることくらい、昼休みに分かったと思うけど」
「そりゃ悪かったな、別に嫌がらせは趣味じゃねぇ」
こうやってこの金髪と話していたら、時間が無駄に過ぎていくだけ。
だから、私は金髪の横を通り過ぎようとした。
「なぁ」
「・・・・何。急いでるの、あんたと無駄話してるヒマは無いのよ」
「そうか。お前、名前は?」
「あんたに教える必要なんて無いわ」
「そう言うなよ。ほら、無駄話してるヒマは無いんだろ?さっさと教えた方が懸命だと思うぜ」
なんなの、偉そうに。
「……麗羅」
「麗羅、ね。ふーん、綺麗な名前じゃん」
「教えたんだから、もういいわよね」
「じゃあ…」
「!」
一応は立ち止まっても振り向かずにいたら、昼休みの時と同じように腕を強引に引かれた。
「俺の名前、結城翔。覚えとけよ」
「…生憎、あんたの名前なんて興味無いわ。腕を離してもらえる?」
「いいから、覚えとけ」
ゆっくりと腕が解放され、私はダッシュで家に向かった。
金髪ーーもとい結城翔に時間を取られたせいで、確実に門限に間に合わなくなっているから。
