「オレって、そんないい加減な男に見える?」
「え、でも――」
椿さんは?
言いかけた言葉を、寸前でぐっと飲み込んだ。
本当に怒ってるように見えたから。
「ジェイ……?」
恐る恐る声をかけると、ようやく彼は小さく苦笑して眉間のシワを解いた。
「……とにかく、今日一日オレたちは恋人同士。遠慮しないで、もっと“彼氏”に甘えてくれていい」
か、彼氏って……
特別めいたその響きに、トクンと胸が鳴った。
「それにオレ財布持ってないから。現金もらっても、入れとくとこがない」
「えぇっ!?」
確かにタクシーの支払いはスマホ決済だったけど……と目を剥くわたしへ、この話はもう終わりとばかり、彼が下段からスマートに手を差し出してくる。
まるで二次元キャラみたいな、キザな仕草。
でもここまで顔がいいと普通にサマになっちゃうんだな、なんて妙なことに感心しつつ。
その視線に押されるように、指先を乗せた。
途端。
満足気に彼の口角が上がって、きつく握り締められる。
まるで拘束するみたいな仕草と愛おしむような眼差しに、心はざわざわと騒ぎ出す。
これが演技なら……演技に決まってるけど、もはやオスカー並みだ。
わたしより役者に向いてるかもしれない。
蕩けた頭のどこかで考えて、目線をぼんやり、彼の胸元へと落とした。


