あぁあ……もう少し時間、欲しかったな。
ジェイにちゃんと謝りたいけど……振り返ろうとして、やめた。
ここは無視して、無関係ってことにした方が彼のためだ。誰だってこんな男とトラブりたくないはず。
そう結論を出したわたしは、わざと視線を逸らすようにして、腕を引かれるまま暑苦しいビッグサイズのスーツに続いた。
あっけない幕切れだな。
なんか、カッコ悪い。
「まったく、俺に逆らおうなんて、生意気に何を考えてるんだ!」
緊張が緩んだのか、アドレナリンが切れたのか。
諦めという名の無力感が、胸の内を灰色に押しつぶしていくのがわかる。
「俺の言葉は親の言葉だって、いつも教えてやってるだろうが!」
ぐわん、ってひと際大きなガラガラ声が脳髄を直撃したタイミングで、
ビルの外へと、引っ張り出された。
親の、言葉……
そうだ。
わたし、何を考えてたんだろう。
勝手なことして、いいはずないのに。
従うしかないのに。
この先も、女優を続けたいのなら。


