メッセージはもらっている。
総帥との面会は無事終わったらしいのだが、帰国の予定などは知らされておらず、どうしても寂しさは隠せない。
「いいもんねーお姉ちゃんといっぱい遊ぼうねー」
指をツンツンつつくと、むにゃむにゃと小さなそれが動き、そして……栞の指をギュッと握った。
「きゃあああ握った! 握りましたぁっ!! 萌えるぅううっ」
きゅんきゅんはぁはぁしている彼女を眺めながら、奈央はくすくす笑う。
そして、やっぱり普通の女の子だな、と眼差しを緩めた。
実は奈央は、本人にカミングアウトされる前から、もっと言えば静のマンションですれ違った時から、“ユウ”が結城栞であると気づいていた。
以前、編集プロダクションでアシスタントをしてた頃、取材先で会ったことがあるのだ。
あの時まだ栞は小学生だったが、すでに女優だった。
よく言えばプロで、悪く言えば子どもらしさに欠けていた。
そしてどんなに監督から褒められても、いつも母親の評価を気にしていたことを覚えている。
今赤ん坊を見つめるその顔に浮かんでいるのは、ただ明るく朗らかな笑みだけ。
どうやら何か吹っ切れたようだ。
事務所を退所した、という報道が何か関係しているだろうか。
もちろんいちファンとしては、彼女の演技をまだまだ見たいとは思うが……それをここで言うのは止めようと思う。
彼女はまだ若い。
迷いながら進んでいくことも、きっと彼女の人生を豊かにするはずだ。
コンコン


