細身のスーツを着込んだ彼は、年齢が30歳前後。
あっさりした目鼻立ちの塩顔で、ごく普通のサラリーマンだが……そのはしゃぎようは初めて100点満点を取った小学生のようで、周りの家族連れが何事かと振り返っていく。
<目立ちすぎだ、バカ>
げっそりと肩を落としながらそそくさとサングラスをかけ、スーツケースをそちらへと押した。
「お帰り、ジェイ! フライトはどうだった? 気持ち悪くならなかった?」
「は? なんで?」
「だってぼく、気圧の変化ってやつにいつまでも慣れなくてさ。乗るたびに耳の奥が痛くなるんだよ。キーーーーン! って」
「別に、どうってことないけど」
「えええーすごいねー!」
ジェイの手からスーツケースを奪うと、男は、るんるん、と書き込みたいような勢いで歩き出した。
「君がいない間、もうすごかったよ。事務所の電話、鳴りっぱなし。街を歩けば君の歌を聴かない日はないし! ぼくも鼻が高いよーほんと! 取材申し込みも山ほど来てるよ。今回は1週間くらいこっちにいられるんだろ? その間に、少しは受けてほしいなぁ。これからは顔出しもOKにするんだし、こんなルックスを放置しておくなんて罪だもんね、つ・み!!」


