結局、あのロケ中には話しかけられなかったんだよな、とジェイは苦笑交じりの顔で、遠のいていく地上の風景を見下ろす。
あの日から、彼は変わった。
次に彼女に会った時は今度こそ絶対に、胸を張って自分から話しかけるのだと、どんなことにも真面目に取り組むようになった。
勉強も他のことも、手を抜かずに努力した。
何もしてないなんて言わせるものかと。
彼女に負けたくなかった。
彼女に、誇れる自分でありたいと思った。
ちなみにそのせいで彼のIQの高さが広く知られるところとなり、よりよい教育環境のためだと、本人の希望は一切聞かれず、アメリカの寄宿学校へ入学させられることになる。
あの時はさすがに抵抗したが(栞との距離が遠くなることも嫌だったし)……今となっては、父親から離れ同世代の友人たちと過ごした時間は貴重だったと思う。
何より、当時のルームメイトのおかげで、作曲ソフトと出会った。
栞への想いを、音楽という形で昇華させる方法を覚えた。
あの日々がなければ、“ファントム”は生まれなかっただろう。
人生、何が幸いするかわからないものである。
◇◇◇◇
「ジェーイ!! ジェイ!! こっちだよーーー!!! こっち!! おかえりーーーー!!!」
無事にスーツケースを回収し、到着出口から足を踏み出した途端だった。
乗客を待つ出迎えの人波の中、ぴょんぴょん飛びながら手を振り回す男が目に飛び込んできた。


