(ミッドナイト・トリガー……懐かしいな)
ビジネスクラスのゆったりしたシートに腰を落ち着けたジェイは、窓の外を眺めつつその映画を思い返した。
栞の役・大村椿は、アメリカの富豪が日本人のホステスに産ませた私生児、という設定だった。
遺産争いに巻き込まれる彼女を警護することになった刑事が主人公。
渋谷のあのビルで撮影されたのは、椿が誘拐監禁されるシーンである。
当時自分はとんでもなく傲慢でバカだった、と思い出すだけで穴があったら入りたい気分になる。
良くも悪くも賢い子どもで、御曹司である自分の立場をよく理解していたと言えるだろう。
手に入らぬものなどなく、思い通りになるのは当たり前だと思っていた。
その伸びきったピノキオのような高い鼻が、あの日ぽっきりと折れた音を彼は確かに聞いた気がする。
――あなた、自分がワガママなクズ御曹司って自覚ある?
絶句した。
自分にそんな口をきく者がこの世にあったとは。
しかも相手は、父親の会社がスポンサーとなっている映画の出演者なのだ。
お前なんかいつだってクビにできるんだぞ、と言おうとした彼を、可愛らしいまん丸の瞳がきゅっと睨んだ。
――さっきから命令ばっかりよね。あなたってそんなに偉いの?
――すごいのはあなたのお父さんでしょう。あなたは何をしたの? 何もしてないじゃない。なのによくそんな偉そうにできるよね。
――それから、英語ばっかり使ってしゃべれない人の事バカにしてるけど、ホントは日本語、わかってるんでしょ? そういうの、感じ悪いから止めた方がいいよ。


