ついつい、リアルに声が出た。


<え? 何?>

振り返った2人組が、ジェイの容姿を認めるなりギョッと目を見開く。
何者だこいつ、的な視線には慣れているので、気にしない。
そんなことより、と画面を指した。

<それ、いいよ>

<は? これ? 『ミッドナイト・トリガー』?>

<そう。ミステリーあり恋愛あり、展開が速くて面白いし、何より出てる役者がいい>

<へぇ>と一人が頷いて、さっそくダウンロードボタンをクリックする。

<助かったよ、もう時間なかったんだ。ちなみに、君のおススメの役者は?>


聞かれたジェイは、ニッと口角を上げて答えた――<結城栞>と。



余談だが、この時の2人はそののちアメリカへ渡り、監督とプロデューサーとしてそれぞれ広く名を知られる存在となる。

そしてこのフライト中に観た映画がきっかけとなって、栞に自作への出演をオファー。
それは彼女の代表作となり、ハリウッドでの成功を大きく後押しすることとなるのだが――それはまだ、しばらく先の話である。