ライアンを見送って、ようやく落ち着いてコーヒーを飲み終えたジェイは、隣の席に置かれた紙袋へチラリと目をやった。

そして軽い咳払いの後、それを自分の機内持ち込み用のカバンへささっと押し込んだ。


(まずい、なんだか……)

栞の肌や唇の感触を思い出してしまった。
柔らかくてもちもちしてて、滑らかで……

(うわ、本気でマズい! ライアンが変なもの寄越すからだ!)

熱がとある一点を目指して集まってくる心地がして、ガタガタっと不格好に立ち上がる。

早くなんとか気を散らさなければ!
歩け! とにかく歩こう!

己の若さを呪いつつ、足早に出口へ向かおうとしたジェイだったが、


<全然わかんないなぁ日本の映画、どれがいいかなんて>
<でもこれから行くんだから、日本語の練習にもなるじゃないか>
<でもさぁ、タケシくらいしか知らないぜ?>

顔を寄せ合ってタブレットに集中する地元民らしき2人組が目に留まった。
まだ若い。10代にも見えるくらいだ。

後ろを通り抜けざまチラリと覗き見ると、画面には映画のタイトルがずらりと並んでいる。有名な定額制動画配信サービスのサイトだ。

おそらく、事前にダウンロードしておき、フライト中に視聴する予定なのだろう。
機内映画は本数が限られているから、気に入るものがないと最悪なのだ。
ジェイ自身も同じことをよくやるため、共感を覚えてなんとなく目を離せずにいると。


「あ」