「椿?」
「ごめっ……なんでもない。忘れて」
慌てて笑顔を取り繕い、彼を置き去りにして速足で歩く。
忘れてた。わたし、彼女の代わりだったっけ。
ファンになってくれたのも、彼女に似てたから。
顔が? あるいは、演じたキャラクターの性格が?
赤い椿の花が、脳裏にチラつく。
あのタトゥーがフェイクだったからって、気持ちまでフェイクだったわけじゃないよね。
本気で好き、だったんだろうな。
やだ。
わたし……嫉妬してる。
大切な人だって、お父さんに紹介までしてくれたのに。
本当に言いたいのは椿さんにでしょって、いじけた自分が嗤う。
今彼女が日本にいたら、ジェイはわたしよりも、彼女に会いに行ったんじゃって……
止めようもなく膨らむどす黒い気持ちに、ついに視界が歪んだ。
「栞、もしかしてペインティングしてた花のこと気にしてる?」


