すべて過去形で語られてることに、相手は気づいてないみたいだった。
ホッと満足そうに全身の力を抜いてる。
「結構! 大いニ結構! まぁ適度な息抜キ、必要ネ。自主性を大事にして自由を与えてイタ、と総帥ニ説明しておく。シカシ、あんなお遊びはもう終わりだぞ」
卒業後は総帥の傍で学べるよう相談してみよう、と逸る父親を、ジェイは冷ややかに眺めながら、再び口を開いた。
「今回の来日、オレには音楽祭以外にも目的があった。ずっと憧れていた、彼女に会うことだよ」
ぐ、っと強く肩を抱かれた。
「ようやく出会えた彼女は……愛おしい程不器用な女の子で、『お母さんが家を出たのはわたしのせいだ』、と自分を責めていた。そして、大事なものを犠牲にしてまで母親との約束を守ろうとしていた。それを知った時、彼女に自分の姿が重なったんだ」
――いろいろ言ったけど、あれほとんど……オレ自身のことなんだ。
その眼差しは、ブレない。
ただ真っすぐに、前だけを見つめてる。
「オレたちの共通点が何か、わかる?」
震えは――いつの間にか、消えていた。


