「まだ決まったわけじゃないだろ。総帥は60代とお若いし、候補者は複数いるって聞いてる」
「コウホ者? ハッ! お前しかいないに決まってイル! 何しろワタシは総帥の甥、独身で子どもナイ彼にとって、唯一の家族といえる存在なのダから」
ジェイしか、いない……ほんとに?
もしかしてジェイ、行ってしまうの……?
ショックを受けるわたしが視界に入ったらしい偉平氏は、薄い唇の端をニヤリと吊り上げた。
「わかったかナ、お嬢サン。ジェシーは君が付き合えるヨウな一般人ではナイのだよ。日本語でも言うダロう、“身の程をわきまえろ”、とネ」
一般人じゃ、ない……
予想通りの言葉。
でも予想以上に心をえぐられ、思わず身体がふらついて――間一髪ガシッと逞しい腕に支えられた。
「ジェイ……」
「――オレも、そのつもりだったよ。次の総帥は、自分だって。ずっと父さんからそう言い聞かされてきたから。でも……どこかに迷いがあった。本当にこれは、オレの進むべき道なのかって」
「何をバカな……」
「作曲を始めてから迷いはますます大きくなったけど、期待を裏切るのはいけないことだと思ってた。だから今回の来日を最後に、きっぱり音楽は止めるつもりだった」


