場にそぐわない明るい音が響いて、その場にいた全員がビクッと動きを止めた。
「だ、誰だ……?」
予想外の訪問らしい。
もしかして、助かるかも……?
わずかな希望にすがりつくように様子を伺っていると、馬淵さんから目配せされたADの男がドアへ近づく。
「……はい?」
『お寛ぎの所失礼いたします。ルームサービスをお持ちいたしました』
年配っぽい落ち着いた女性の声がして、ドアスコープから外を確認した男が戻って来た。
「ほんとにホテルのスタッフですけど……」
「何も頼んでないと言え」
言われた通りのことを伝えても、向こう側の声は動じなかった。
『はい、当ホテルからのサービスでございます。音楽祭の時には毎回、軽いお食事とお飲み物を差し入れさせていただいておりますが……ご存知ありませんか?』
馬淵さんは知らなかったらしい。
頬を歪めて、舌打ちする。
そしてわたしの身体を引っ張って立たせ、ドアから死角になる壁際へ押し付けた。


