ポーン
到着を知らせる小さな音が、天上の音楽みたいに聞こえた。
するすると開いていくドア。
ガラス張りの内部がチラリと見えた。
大丈夫。
まだあの男は追って来ていない。
逃げ切った……
中に乗っている誰かの足がピカピカの壁に映り、さらに安堵が押し寄せる。
あぁよかった。
ホテルのゲストかな。
この人に助けてくださいって言おう。
フロントまで一緒についてきてもらって……
「お願いします、助けてくださいっ! 襲われて、逃げてき――」
言葉が、宙ぶらりんのままブツリと消えた。
そこに立っていたのは、馬淵さんだった。


