1階フロアに飛び出すと、そこは営業を終えたスナックがひしめく狭い廊下。
照明はついてなかったけど、出口から差し込む日差しで充分だった。
積みあがったビールやおしぼりのケース、段ボールの向こうに、目指す姿は簡単に見つかったから。
やった! ギリギリセーフだ。
「ちょっと待って! 待ってください!」
叫ぶように声をかけると、前を行く足が止まった。
そしてその人は振り返り、「あれ」と首を傾げる。
「君は……」
「あのっ……すみません、ちょっと、お話が、あって」
ヘロヘロになりながらなんとか追いつき、荒い呼吸を整える。
「ん? 話?」
「あのっ――……」
勢いのままに続けようとして、最後の最後でふと怯む。
わたし、プライベートな場面で逆ナンなんてしたことないんだよね、今更だけど。
……いやいや、もう呼び止めちゃったもん。
後には引けないよ。
ちょっと怖気づきながらも、なんとか腹をくくる。
そして震えを抑えつつ、できるだけ自然に、台本ナシの即興芝居に挑むような気持ちで唇を動かした。
「東京観光のガイド、わたしにやらせてもらえませんか?」


