ちらっと薄目を開けて、髪の匂いをクンクン嗅いでる男を伺う。
こいつを撮影現場で見かけたことはない。
わたしのファンってわけでもなさそう。
なら、きっと知らないはずだよね。
モブ専だのオワコンだの言われ続けたこの数年間、わたしが一番多く演じたのが、殺人事件の被害者役だということを。
たとえ台詞が一言でも、開始5分で消える命でも、家族がいて、友人がいて、同僚がいて……背負ってきた人生がある。
いい加減に演じていいはずがない。
だからとことん研究した。
毒殺、刺殺、絞殺、扼殺、撲殺……
それぞれのシチュエーション別に、表情や呼吸の変化、手足や関節の動き、etc.
もちろん、かの有名な福本清三先生には遠く及ばないとしても。
モブにだって、モブのプライドがある。
思い通り好き勝手にできるお人形だと思ったら、大間違いなんだから。
さぁ、リハなし本番一発勝負……
今ここで、演じてみせようじゃない。
心を決めたわたしは――ビクンッ! と大きく身体を波打たせた。


