エレベーターホールに駆け込むと、階数表示のランプは下へ移動中だった。
まだ1階には着いてない。
間に合うかどうか。
考えるより先に、わたしの手は非常階段のドアを開け放つ。
カンカンカン!
カンカンカン……!
甲高いヒールの音を響かせ薄暗い階段を駆け下りつつ、もう一度さっき浮かんだアイディアを反芻してみる。
そう。
わたし、彼に頼んでみるつもりなんだ。
抱いてくれませんかって。
ド直球に言ったら単なるヤバい女だから、そこらへんは上手くオブラートに包むとして。
処女だってことは、できれば内緒にしておこう。
面倒くさがられたらイヤだし……。
どうだろう、いきなりそんなお願いしたら、ドン引き決定?
だよね、わかってる。
でも、なんだかもう彼しかいないって気がしてくるのよね。
だって今後顔を合わせる可能性があると気まずいけど、彼は観光客でしょ。
明日か明後日か、とにかく数日後には帰国する。
旅先での割り切った遊びなんて、きっとすぐに忘れてくれる。
世界中に恋人がいそうなカオ、してたことだし?


