「ぐふっ……ぷぷぷぷっ……」
「奈央さん、笑いすぎですよ」

「ぶっふふ……だって、あの人、本気で泣いてたわよ?」


個室に入って、専用の“分娩着”なる浴衣に似た服に着替え、ベッドに横になっても、奈央さんはまだ笑い続けていた。

「なんか緊張がどっかに行っちゃったみたい」
「それは良かったです」
「すごい演技力ねー、私までもらい泣きしそうになっちゃった。ほんとさすがって感じ」

「え? 何か言いました?」
「んーん、なんでもない」

なんだか気になる言い方をされたような……気のせいかな?
確かめようかどうしようか迷っている間に、

「っあ、また、来た……」

奈央さんが手の中のスマホを握り締め、ギュッと眉を寄せた。

わたしは急いで椅子から立ち、壁に向かって身体を折り曲げるように耐えているその背中をさする。


検査を受けてる間に、陣痛はもう始まっていて。
生理痛程度の痛みが、数分毎に来るらしい。

この間隔が段々短くなり、分娩となるそうで、今アプリで測りながら待っているところ。破水から半日経っても陣痛がこなくて薬を使う人もいるらしいから、ここまでは順調なんだって。
でも……額に汗を滲ませて顔を歪める様子は、すでにかなり辛そうだ。

さっき、奈央さんのスマホに拓巳さんから入った連絡によれば、ジェイとは無事に会えたみたい。今一緒に車で向かってるそうなんだけど、タイミングの悪いことに、そこでトラブル発生。途中で事故渋滞にはまっちゃったらしく、全然動かないのだとか。