RRRR……
一人になった途端、にわかに自分の立場と容赦ない現実を思い出してしまい、重いため息がこぼれた。
そうだった、余計なこと考えてる暇、ないんだっけ。
この電話に出れば、そのまま連れ戻されて。夜までずっと見張られて……時間がきたら、馬淵さんの元へ向かうことになるんだろう。
――あの馬淵雄三氏が、お前を推してくださったんだぞ。役にぴったりだって。
莉緒役が決まった時から、なんとなく嫌な予感はしてたんだ。
子役の頃はともかく、今やすっかり過去の人って扱いのわたし。
主要キャストとは程遠いモブポジションが定着してるし、たまにちょっとおいしい役がもらえてもバーターだった、とかね。
そんなわたしに、いきなり準レギュラー?
何が起こったんだろうって、思うじゃない?
そしたら案の定の裏取引。
そんな例なんか腐るほど見てきたし、キレイごとだけじゃ生き残れない世界だってことは理解してる。
特にわたしなんて、光るような演技も容姿もない、平凡人間だもん。昔の遺産だけで運よく仕事もらえてるようなものだし。
今までそういうの、避けて通ってこられたことの方が不思議なくらい。
だから、いつか来るだろうって覚悟はしてた。
嫌だなんて、言うつもりもなかった。
それよりも女優でいたいって思いがあったし、そのためなら仕方ないって考えてた。なのに……
なんだろう、今の、この気持ち――
胸の奥に溜まるモヤモヤのままに、鳴り続けるスマホを無言で握り締める。
プツッと音が途切れ……留守電の応答メッセージに切り替わったみたい。
――『話題作りだよ、話題作り!』
ヒナタ君の声が頭のどこかで響いた気がして、唇をきゅっと引き結んだ。
やっぱり……引っかかってるのはあの部分。まさか、彼との関係まで馬淵さんが仕組んだことだったなんて、思いもしなかったから。


