宇佐美に指定されたカフェは、幸いそれほど遠くではなかった。

(あぁあれね)

タクシーから降りるとすぐ、潤子は店の外に路駐された白い車に気づいた。

運転席を覗き込みコンコンと窓ガラスを叩く。
パソコン作業に没頭していたらしい男が顔をあげた。

ウィン、と滑らかに窓が開き、「社長、お疲れ様です」と微笑む。

お疲れ様、とこちらも笑顔で返そうとしたのだが、
「……宇佐美君、何その眼鏡」

開口一番、思いっきり不審げな声がでてしまった。

それも仕方ないだろう。
分厚い瓶底眼鏡にカラスの巣のような頭……これじゃまるでコントだ。

指摘された宇佐美は、照れくさそうに苦笑い。
「夢中になって忘れてました」と眼鏡をはずし、もしゃもしゃに乱れた前髪を手櫛で整える。

「いろいろ事情がありまして」
額をすっきり出すと、和装が似合いそうな品のある面立ちが現れた。

この顔といい、清潔感のある佇まいといい、つくづく裏方にしておくには惜しすぎる素材よね……と考えながら、「事情って?」と潤子は尋ねた。


「それは後でお話しします。話すと長くなるので。とにかく先に彼と会っていただいた方がいいかと」

そう言って、目の前にあるカフェを指す。

「あぁ、電話で言ってた、私に会いたいっていう人のことね? もちろん会うわ。でもその前に、こっちもあなたにお願いしたいことがあるのよ。うちの事務所の一大事なの」