あの子をホテルに連れてくることができるかどうかは、高木との交渉にかかっていたのだ。

もし今夜の“仕事”をすっぽかしたりしたら……あの子は引退に追い込まれるかもしれない。
いや、自分から引退宣言かも。

想像したくない事態に、眩暈を覚えた。
それだけは避けなければ。

考えろ。
考えるのよ。

なんとか足に力を入れ、自分を鼓舞するように大股で歩き出しながら思いを巡らせる。


小心者の高木を動かすのは、そもそも容易ではない。
充分に魅力的な商談であっても、必ず一度はしり込みする。
失敗したくないからだ。

このまま一方的な“お願い”を続けていても埒が明かない。
勝負の前に負けが見えている。

であれば……取り引き材料以外の、カードがほしい。

例えば何かないだろうか、高木の弱点は。
首を縦に振らざるを得ないような……

愛人の情報?
いや、バラされたところで彼自身は芸能人じゃないし、どうということもないだろう。
しかも、あそこは妻にも愛人がいる。
業界内では有名な話だ。

この際、法律に触れさえしなければなんでもやってやる、と潤子は思う。
それくらい、いつになく必死だった。