「えーっと、このビルの前の通りをまっすぐ向こうに行くだけです。あの黄色い看板がある方向」
柵の隙間から手をつきだし駅の方向を指すと、同じ方を見つめていたイケメンが、「サンキュー」と唇を綻ばせた。
話を聞いてみると、なんと彼、アメリカから来日中の観光客で、道に迷ってたんだって。
高いビルの上からなら、見覚えのあるランドマークが何か見つかるんじゃないかと思ったんだそう。
「東京って来るたびに変わってるから、全然覚えられなくってさ」
方向音痴って言うんだろ、とはにかむ表情からはクールな大人っぽさが消え、どことなく幼い雰囲気になって。
思ったほど年上じゃないのかな、とつられるようにこっちも頬が緩んじゃった。
「日本語、上手いですね」
「小学生の頃、東京に住んでたんだ。4分の1は日本の血だしね」
気さくな人柄なのか、わざわざ詳しく、お母さんが日本人とロシア人のハーフ、お父さんはシンガポール人だと教えてくれて。
そのおかげで、パッと見た目のアジア人の外見と、ミステリアスなチャコールグレイの瞳の謎が解けた。
「君もあまり、日本人ぽく見えないよな?」
「たまに言われますけど、両親も祖父母も日本人ですよ」
子どもの頃は、もっと外国人っぽく見えたらしい。
学校ではイジメられたこともあったくらい。


