「……俺は、言ったよな? 指示出すまで絶対動くなって、言ったよな!?」


「もっ申し訳ありませんっっ!!」
「いきなり走り出したんで、逃げるのかと」
「3人がかりなら捕まえられると思ったんです。まさか、あんな……」


「言い訳は聞きたくねえんだよ!!」


「「「ははいっ!!」」」



重たい瓶底眼鏡を鬱陶しそうに押し上げ、男は案内板の影からそっと顔を覗かせた。

従業員用のエリアだろうか。
一般客からは目につきにくい奥まった場所に大の男が3人、そろって項垂れている。
うち一人は、顔や髪についた生クリームを拭きとろうと悪戦苦闘しながら。

ユウの投げたクレープが見事に命中した場面を思い出し、男はつい吹き出しそうになる口元をギュッと手で押さえなくてはならなかった。

あれは傑作だった。
ただ可愛いだけのお姫様かと思ったら、そうじゃなかったらしい。


「くそっ……だから嫌だったんだ、メンバー現地調達なんて。最初から上がプロを寄越してくれてたら……」


3人を前にしてくどくどと毒づいているのは、例の茶髪の男だ。
どうやら彼が、男たちのリーダー、もしくは指示役ということらしい。


「ふん、まぁ起きちまったものはしょうがない。間抜けな展開はクソムカつくけど、そのためのアプリだもんな。とっとと位置を確認して――」
「そう上手くもいかないみたいだよ」