彼と寝ちゃったら、愛されちゃったら、
これ以上、気持ちをコントロールする自信がない。

きっと、最後の何かが崩れてしまう気がする。

彼が一番になって、他の人に抱かれるなんて無理、って思っちゃう。
仕事も何もかもどうでもよくなって、身代わりでいいからアメリカについて行く、とか口走るかも。

でも――それじゃいけない。

処女のままで、つまり結局馬淵さんの思い通りっていうのは、もちろん面白くないけど。

わたしは、女優を続けなきゃならないから。
もっともっと頑張っていい役をもらって、たくさんテレビに出て……

そうしたら……


チリン。


チリチリン……




「――だよねえ、でさぁ」
「うっそぉ、マジで!?」
「やっだぁ!」

どやどやって女の子のグループが賑やかに入ってきて、ビクッと現実に引き戻された。

やだ……ぼんやりしちゃった。

メイク用のポーチをショルダーバックにしまい、わたしはそそくさとその場を後にした。