――まぁ、どんなことでも“お初”っていうのは緊張するもんでしょ。まだ若いしねえ。しょうがないよ。

――若いタレントっていうのは扱いが難しいんだよねえ。大丈夫、潤子ちゃんのせいだなんてこれっぽっちも思ってないよ。あ、潤子ちゃんなんて言っちゃいけないかな? 社長さん、だもんねえ。


六本木の路上で停めたタクシーに崩れるように乗り込み事務所の住所を告げると、潤子は大きく息を吐きだした。


――いいよいいよ、お楽しみは最後に取っておかないとね。焦らされた方が楽しみも増すってもんだし。オジサン興奮しちゃうなぁ。

――本番生ハメだけは、絶対譲れないからね。よろしく頼むよ?


(いっぺん死ね! このクソエロオヤジっ!)


ネチネチネチネチ聞かされたセクハラ発言で、鼓膜が爛れそうだ。
あれで役員候補?

今のところ同期のライバルに一歩リードされており、確定ではないらしいけれど……ABCテレビの将来が心配になってしまう。

憮然としたままゴシゴシ思いきり耳をこすり、スマホで時間を確認した――16時半。

“プロデューサー詣で”のついでに、あちこち顔を出し挨拶していたら、すっかり時間が過ぎてしまったようだ。

スマホは沈黙したまま。
例のマネージャーから連絡は来ていない。