そう、だから――きっとこれは、彼特有のジョークみたいなもの。
真面目に相手したらケガするやつ。
後から『本気にしたの?』って笑うんでしょ?
「えっと、とりあえず、離れない? ほら、あっちから誰か見てるしっ」
ベンチの端まで追い込まれてしまい、とっさに視界に入った隣のゴンドラを指したんだけど……強引な手に握り込まれ、黙殺された。
「ずっとオレだけ見て。他の事なんか、考えなくていい」
苛立ったように低く掠れる声音が、脳内を妖しくかき乱す。
やめてよ。
そんな風に言わないで。
そんな風に見つめないで……
呆然としているうちに、形のいい唇がゆっくりと近づいて。
その瞳に映る自分が次第に大きくなっていくのを、わたしはスローモーションを眺めるみたいに、ただ見つめていた。
「んっ……」
ついに、唇が触れ合う。
角度を変えつつ何度も啄まれ、触れ合った部分から生まれる微熱に溺れる。
それはたまらないほど優しくて、甘やかすみたいなキスで……


