下弦の月*side story*

直哉は、淳平を尊敬してるのは知っていたから。




誉められたことが嬉しいに違いない。







「淳平さん…すいませんでした。彩芽を一度は振ったくせに…彩芽がまだ俺に未練があるのを良い事に、関係を続けてた俺は男として最低です。もう、彩芽の心は完全に淳平さんにありますよ。彩芽を宜しくお願いします。」






深々と頭を下げて、店を出て行った。







立ち竦む私の頭に手が置かれた。





「お前が決めて、ちゃんと話して来い。直哉を選ぶなら潔く諦めるし、俺を選んでくれるなら今まで通りだ。早く追いかけろ。これを逃したら…後悔するぞ。」







大きく頷いて、直哉の後を追った。








路地裏の奥にある淳平の店を出ると、




月明かりだけが淳平の店の看板に反射していて、




けっこう暗いけれど……夜目の利く私は、




大通りに出る角を曲がって行く直哉の姿を、捉えた。



「直哉!」






駆け寄って、声を張り上げると。




ゆっくりと振り返って、





「どうした?」





驚きの表情を見せた。







「淳平に、追い掛けてちゃんと話せって言われたから…」






「そうか…ごめんな、彩芽の気持ちを掻き回して。俺は、淳平さんに彩芽を渡すなら後悔しないよ。俺達は…結ばれない運命だったんだ。前世でも現世でも、彩芽を誰よりも想って守ってくれるのは…あの人だよ。」







「…直哉…」






「気付いたんだろ?淳平さんに知られてるってわかって…すでに淳平さんを100%好きだって。」







「うん…ごめんね」






「もう、いいから…幸せになれ。淳平さんと。あの人の背中に着いて行けば間違いない。」







首を縦に振ると、頭を撫でて笑顔で。





背中を向けた。






その背中に、ありがとう。と伝えると。





片手を上げて、まだまだ眠らない都会の灯りの中に消えて行った。