「なんの話かわかってるよな。」

「うん。」


七瀬は申し訳なさそうに目を伏せている。

何を今さら…


「ウザイ。もう付いてくんな。」

「…。」

「香月…言い方。」

七瀬をかばうために
お前を呼んだんじゃねぇぞ…


「…ごめんね。」


え、謝った…?

じゃあ…




「でも付いてくのはやめない。」



「っ、いい加減にしろよ!!」


七瀬は肩をビクッと震わせた。

唇が微かに震えている。


「ごめんなさい。」

「意味わかんねぇ。
なんで付いてくんだよ…」

「っ…ひ…暇だから」

「なんだよ…それ。
ふざけんなよ。」

「アハハ…」

「笑ってんなよ。」

「ご、ごめん…」


七瀬は俯いているけど、泣いてはいないようだった。

なんで泣かねぇんだよ…


「俺のこと好きだからじゃねぇのかよ。」

「ち、違う…。」

「いつまで続ける気?」

「まだわからない…」

『まだ』…?

「わかんないって何。
飽きるまでじゃないの?」

「違うよ。」


七瀬はそう言うと、顔を上げた。

やっぱり泣いていなかった。

唇に血が滲んでいる。
噛んでたのか…


「くそ…」

「えーっと、七瀬さん。
香月、迷惑してるんだって。
ストレスでハゲてきてるらしいよ。」

「ハゲてねぇわ。」

「やめてあげてくんない?お願い。」


大連は深々と頭を下げてくれた。

適当なヤツだと思ってたけど…
俺のために…


「頼む。やめてくれ。」

屈辱ながら、俺も頭を下げる。


仕方ない。
ストーキングが終わるなら…




「ごめん。できない。」




頭を上げると、七瀬が力のこもった瞳で
俺を見つめていた。


俺は思わず唾を飲む。
自分の体内にごくりと音が響いた。

「っ…
お前、俺のこと…"キーンコーンカーンコーン…"



「昼休み、終わっちゃった…」

「一旦戻ろう。七瀬さんも、香月も!な。」

「ごめんね。
ごはん食べる時間なくなっちゃって。」


なんで…
なんでコイツが謝る…?

『"まだ"わからない』ってどういう意味だ?

なんで泣かない?




「香月くん、今日も一緒に帰ろう。」


「……どうしてだよ。」


「暇だから…」



どうして嘘をつくんだ?


俺が返事をせずに顔を背けると、
七瀬は「校門で待ってる」と言って、
教室の方へ走っていった。