恋歌-Renka-





振り向いてみるが
顔が良く見えない。



姿形はあるのに
顔だけがはっきりしない。




一体誰なの?



「行くなっ…………花音、愛してる…………」



愛してる………



心地よい声に
胸の奥が少し
くすぐったくなる。





ドクドクドクと
刻まれる心音が聞こえて





なんだ、私はまだ
生きているじゃないか………




そう思って前をみると
二人の幻影は消えて




後ろにいる私を呼ぶ彼の姿が
はっきりと見える。






あれはーーーーーーー!!!






ーーーーーーーーーーーーーーー



深い眠りから
目覚めたように
うっすらと瞳を開く



ここはーーーーー?



「花音!!」



起き上がろうとした瞬間
誰かが私の両肩を
思いきり引き寄せる



「良かった!!」




ブルブルと震えながらも
力強く私を抱き締めているのは
紛れもなく遙で…………




これが涼太だったら
どんなに幸せだっだろう?
そんなことを思ってしまう
私は最低なのだろうか?



だけど、ずっと一緒にいてと
約束した遙が、こうやって
側にいてくれてることに安堵する。



私はまだ生きている……。




「そっか………私、倒れて………。あれ?琴乃ちゃんは?」





「いや、えっと……その…」





琴乃ちゃんの名前を
出した途端に
妙な態度をとる遙。




何だかとっても
嫌な予感がする



「琴乃ちゃんはどこ?ちゃんと話して」




「……………わかった。花音の為にも話した方がいいよな………琴乃は下の階の病室にいる」




下の階の病室?



「何で?」



「帝がここへ来る途中、交通事故にあった。かなりの重体で緊急手術をしたあと、一命は取り留めて下の階の病室で眠ってる」





「へ?」





いきなり涼太の
名前が出てきたのと
交通事故っていう単語が
ミスマッチすぎて
間抜けな声が出る





「琴乃ちゃんが、花音の病気のこと…話しちゃったみたいで………その途中でトラックに引かれて………強く頭を打ち付けて脳死状……………って花音!?」





遙が話し終えるより先に
病室を飛び出したーーーーー





嘘よ…………嘘。





そんなの絶対に嘘。




きっと私が行けば
彼は普通に挨拶を
してくれるはず………




いや、むしろ
お前なんか嫌いだって
拒絶されるはず………





思いきり階段をかけ降りて
帝 涼太の名を探す





そして見つけて入った瞬間
大粒の涙を流しながら
琴乃ちゃんが私に
抱きついてきたーーーーー