「あいつに本当のこと言わなくて良かったの?」



強く私を見据えるその瞳に



ドクン…………



心臓が跳ね上がる。



…………何で今さらそんな。




「いいの。」




私はフイッと顔を反らし
弱々しく答える。




「絶対、後悔すると思うぞ」




そんなこと言わないで。
決心が揺らぐ。




大好きな彼に
泣いてすがり付きたく
なってしまう…………




優しい涼太はきっと
私という重い十字架を
快く背負ってくれる。




でも、そんなわけにはいかない。




だって悲しむのは彼だもの。




「花音さん、時間でーす!」




名前を呼ばれ何も言わずに
控え室から出る。





「花音………好きだよ。だからそんなに自分を苦しめないで………」




そんな遙の小さな呟きは
花音には届いていなかった。




ーーーーーーーーーー




会見インタビューも終わり
私の芸能生活に幕が下りた。




涼太は今ごろ
何をしているんだろう?




テレビ越しに私を見て
どう思ったかな?




そもそも見ていたか
どうかさえ分からない。





「花音さんっ!!」




不意に名前を呼ばれて
振り返る




「琴乃ちゃん?」




そこには息を切らした琴乃ちゃんが
苦痛に顔を歪ませながら立っていて………





「芸能界、引退って本当ですか!?」





何故、琴乃ちゃんが
ここにいるのか?





そんな疑問よりも先に
琴乃ちゃんがいつ
涼太に私の事を
言ってしまうのかが
怖くてたまらない。





「うん。琴乃ちゃんなら、理由が分かるでしょ?」





軽く微笑んで
彼女に近づくーーー





「涼太をよろしくね」





これでいい。





「………うっ」





琴乃ちゃんの横をすり抜けた瞬間
胸のあたりに酷い激痛が走る
そのまま倒れ込む私に


「花音さん!?」


「花音!!」




驚いて駆け寄る琴乃ちゃんと遙
そこで私は意識を手放したーーー