下弦の月

「おかえりなさい。」






怪我人の世話をしている、月香の元へ行けば。





手を止めて、笑顔で迎えてくれた。





月香が率先してずっと戦の最中、陣中で怪我人の世話や手当をしているのは山崎に託されたかららしい。





最初はぎこちなかったが、今では慣れたもんだと感心する。









「落ち着いたらでいい、茶を淹れて来てくれ。」






そう告げて、部屋に戻ってから小姓の鉄之助を呼び、








「近いうちに…ここを脱出して日野の家族に届けてくれ。」






と、遺影と遺髪を渡した。





しかし……鉄之助は、固くなに首を縦に振らなかった。







「行かねぇなら…この場で斬り捨てる!」






刀を首元に、突き付けると渋々ながら頷いた。






「今すぐではない、本当に状況が悪化した時…頼んだぞ。お前にしか頼めないからな。」






「はい。ですが…月香さんは?」






「あいつは…最後まで、側に置いておく。心配はいらねぇ。あいつと話は吐けてある。」






「わかりました、この遺影と遺髪は必ず届けます。」






「ああ…任せた。月香の心配をしてくれてありがとな。」







いいえ。と頭を下げて部屋を出て行った鉄之助の背中に、






ここまで、俺に着いて来てくれて感謝してるぜ。






口には出さずに、心からの言葉を伝えた。