私も、驚いてしまったけれど、



それは、別の意味。



自分の大切な女と言った事。



顔を見上げると、腕の力を強められた。






「本当にいいのか?」






不適な笑みをまた浮かべて、院長は部長を見下しているように見えたが。






「ああ…こいつを手離して、契約を継続する気なんてねぇよ!」






今度は、怒りを抑えているのだろう。




私を抱いている反対の左手は、拳になっていて、小刻みに震わせながら。




そう言って、








「行くぞ!」





と、私の鞄と自分の鞄を持って。




肩を抱いたまま、個室を出た。





背中から何が可笑しいのか、院長が可笑しそうに笑う声がした。








起こるはずがないと思っていたドラマやアニメみたいな展開に、




ホッと胸を撫で下ろして、





「あの…部長?」





そう問い掛けても、何も言わずに。





料亭の外へ出て、大通りでタクシーを拾って。




私を先に乗せてくれた。



タクシーの中でも、




無言のまま連れて来られたのは、部長の部屋だった。







腕を掴まれたまま、電気を点けると。




ソファーの前で乱暴に手を離されて、



私の身体はソファーに何とか倒れずに落ちた。






ネクタイを緩めて、



Yシャツの第一ボタンを外しながら、



私を見下ろす瞳は、




さっきまでとは違って優しい瞳だった。



「月香…」





目の前に、しゃがんで名前で呼んだ部長の瞳はしっかりと私を捉えて離そうとしない。




だけど、泣いてしまいそうで……




下を向くと。





「目を逸らすな。泣いてもいいから、俺の目を見ろ。」





髪を撫でながら言われて、ゆっくりと顔を上げる。