遼ちゃんは、相変わらず忙しい。
あの『宣戦布告』のあと、あの二人がどうなったのか、わからないけど、マメにL〇NEで連絡をくれる。タイミングが合えば、私の部屋で一緒に過ごした。寂しくなったら、左の薬指の指輪を眺めて過ごした。
そして、秋。
私たちは、いつものように私の部屋で、一緒に過ごしてた。いつものように、仕事の後の貴重な、短い夜。
でも、いつもと違う。遼ちゃんは、ずっと考え事をしているように見える。
「遼ちゃん、どうかした?」
「ん~?」
タブレットをいじりながら難しい顔をしていたけれど、暫くすると、画面から目を離さずに、私に声をかけてきた。
「……美輪」
「何?」
「僕、留学しようかと思うんだ」
「……留学?」
「うん、あっちの演劇の学校に行ければなって」
唐突過ぎて、すぐに声がでなかった。
「前から考えてたんだけどね」
「そう、なの?」
「ずっと悩んでたんだ。本当は。最近は仕事が立て込んでて、なんとなくタイミングを逃して今になっちゃったんだけど」
タブレットから視線をはずして、私を見つめる。
「まだ、寺沢さんにも言ってない。最初に、美輪に話したかったからさ」
遼ちゃんがやりたいことだったら応援したい。でも。
「……仕事の方は大丈夫なの?」
「んー、でも、このままズルズルしてるのもね。一度、リセットしたいんだよ」
まるで、私たちの関係も『リセット』したいのかのように聞こえてしまうのは、相変わらず、私の自信のなさなんだろう。
「……どれくらい?」
「二年くらい、かな」
「……そう」
「一緒に来る?」
真剣な眼差しで私に問いかけてくる。
「……行かない」
「なんで?」
「だって、帰ってくるんでしょ?」
彼は勉強をしに行くんだ。遊びに行くわけじゃない。
そもそも、私が海外に行ったって、遼ちゃんがいない時間、何をしてればいいというの?
「美輪なら、そういうと思った」
タブレットをテーブルに置くと、私を背中から抱きしめた。
「まだ、確定した話じゃないけど、僕は本気で行くつもり。」
「いつから行くつもり?」
「年明けから学校が始まるから、その前には渡米しないとね」
「結構具体的に考えてるんじゃない」
「……そう、だね」
遼ちゃんは前から、言っていた。
自分は、まだまだだって。
遼ちゃんは、もっと経験を重ねていけば、もっともっといい役者になる。
まだ若いんだから。焦るな、って言ったって、無理だよね。
相変わらず冷静なもう一人の私が、確かに、いる。
『行かないで』
そう呟く、『女』な私は、『冷静』な私の影に隠れてる。
『帰ってくるんでしょ?』
どうしても、出てくる言葉は、『冷静』な私。
遼ちゃんのために。彼のためになるなら。自分の中の『女』な私を抑え込む。
……私って、バカだなぁ、って思う。
あの『宣戦布告』のあと、あの二人がどうなったのか、わからないけど、マメにL〇NEで連絡をくれる。タイミングが合えば、私の部屋で一緒に過ごした。寂しくなったら、左の薬指の指輪を眺めて過ごした。
そして、秋。
私たちは、いつものように私の部屋で、一緒に過ごしてた。いつものように、仕事の後の貴重な、短い夜。
でも、いつもと違う。遼ちゃんは、ずっと考え事をしているように見える。
「遼ちゃん、どうかした?」
「ん~?」
タブレットをいじりながら難しい顔をしていたけれど、暫くすると、画面から目を離さずに、私に声をかけてきた。
「……美輪」
「何?」
「僕、留学しようかと思うんだ」
「……留学?」
「うん、あっちの演劇の学校に行ければなって」
唐突過ぎて、すぐに声がでなかった。
「前から考えてたんだけどね」
「そう、なの?」
「ずっと悩んでたんだ。本当は。最近は仕事が立て込んでて、なんとなくタイミングを逃して今になっちゃったんだけど」
タブレットから視線をはずして、私を見つめる。
「まだ、寺沢さんにも言ってない。最初に、美輪に話したかったからさ」
遼ちゃんがやりたいことだったら応援したい。でも。
「……仕事の方は大丈夫なの?」
「んー、でも、このままズルズルしてるのもね。一度、リセットしたいんだよ」
まるで、私たちの関係も『リセット』したいのかのように聞こえてしまうのは、相変わらず、私の自信のなさなんだろう。
「……どれくらい?」
「二年くらい、かな」
「……そう」
「一緒に来る?」
真剣な眼差しで私に問いかけてくる。
「……行かない」
「なんで?」
「だって、帰ってくるんでしょ?」
彼は勉強をしに行くんだ。遊びに行くわけじゃない。
そもそも、私が海外に行ったって、遼ちゃんがいない時間、何をしてればいいというの?
「美輪なら、そういうと思った」
タブレットをテーブルに置くと、私を背中から抱きしめた。
「まだ、確定した話じゃないけど、僕は本気で行くつもり。」
「いつから行くつもり?」
「年明けから学校が始まるから、その前には渡米しないとね」
「結構具体的に考えてるんじゃない」
「……そう、だね」
遼ちゃんは前から、言っていた。
自分は、まだまだだって。
遼ちゃんは、もっと経験を重ねていけば、もっともっといい役者になる。
まだ若いんだから。焦るな、って言ったって、無理だよね。
相変わらず冷静なもう一人の私が、確かに、いる。
『行かないで』
そう呟く、『女』な私は、『冷静』な私の影に隠れてる。
『帰ってくるんでしょ?』
どうしても、出てくる言葉は、『冷静』な私。
遼ちゃんのために。彼のためになるなら。自分の中の『女』な私を抑え込む。
……私って、バカだなぁ、って思う。


