休みが終われば、いつもの慌ただしい日常がやってくる。
 これまでと違うのは、関根君の蛇のような眼差しと、遭遇しなくなったこと。
 もともと、普段の仕事の時はそんな余裕なんかなかっただろうけど、帰りもさっさと帰っていく。
 それに、関根くん、なんだか楽しそう。
 いろいろ絡んでこられてたことを考えて、どうしよう、って悩んでた分、なんだか拍子抜け。

「なんか、関根くん、ご機嫌ですね」
「ん?ああ、元カノと復活したからじゃん?」
「……へ?」
「この間の練習の後からかな」
「……そうなんですか。」
「何?寂しい?」

 ニヤニヤしながら私を見る目は、とても楽しそうなんですけど。

「そんなことは、ありません。ていうか、ありえません」

 力説してる私に、相変わらずニヤニヤしてる笠原さん。

「ていうか、元カノって、女子マネかなんかなんですか?」

 あの練習の後っていうからには、あそこにいた人じゃなきゃ変かなと思うわけで。
 あ、だから関根くんは、練習に行くのを嫌がってたのかな。
 それでも笠原さんのことを考えると休むに休めない、みたいな。

「そう。まだ大学三年かな。俺、彼女からも相談されてたんだよね。だから、あの練習、関根も呼んだんだ」
「へぇ」
「どうも、もともと彼女の方がフッたらしいんだわ」
「なのに、なんで」
「社会人と学生じゃ続かない、みたいに思ってたらしい」
「ふーん」

 芸能人と一般人も大変なんだけどな。

「でも、やっぱり、忘れられないんだとさ」
「で、再挑戦と」
「まぁ、もともと、ヤツが惚れて付き合いだしたみたいだし、彼女のほうからもう一度、なんていうんだから、嫌とは言わないだろ」

 おかげで、ストーカーみたいなことはなくなるんだったら、ありがたいけど。
 一馬にも迷惑かけてたし。

「そういや、神崎さん、こっち帰ってくるんだって?」
「あ、まだ確定ではないですよ?」

 この前の休みでそんな話を聞いた。

「戻ってくるんだったら、時々、うちの練習、来てもらえないかなぁ、と思ってさ」
「へ? なんで母校でもないのに」
「いいじゃん。この前の練習見てもらって、やっぱ、あの人は違うわ、って思ってさ。第一、現役でもないのに、何、あのカラダ。俺、自分がなさけなくなったよ」

 そう言いながら、少しぽっこりした自分のお腹を見る笠原さん。確かに、兄ちゃんは妹の私が見ても、いいカラダしてると思う。

「まぁ、そんときは、連絡先聞いてるから、直で頼むけどさ」

 ニヤニヤしながら、パソコンに向き合ってる笠原さんは、なんだか悪魔な気がしてきた。なんでだろう?