たわいない会話と、美味しいランチを食べ終えて、最後のデザートのチョコレートケーキ。甘さ控えめのはずだけど、私にはやっぱりちょっと甘かった。
 ブラックのコーヒーを飲みながら、遼ちゃんを見つめる。目を合わせながら、ふっと微笑む彼は、やっぱり私には王子様で。

「ねぇ、美輪」
「何?」
「最近、なんかあった?」
「なんかって?」

 何かもどかしそうな表情の遼ちゃん。

「一馬から何か聞いたの?」

 私のことで、遼ちゃんの情報源なんて、一馬くらいしかいない。

「えと、うん」

 思わず、大きなため息がです。遼ちゃんに心配とかかけたくなかったのに。あのバカ。

「大丈夫だよ。遼ちゃんが心配するようなことなんか、ないから」

 今は、まだ、彼にとって大事な時期。私のことなんかにかまけて欲しくない。

「でも、不安なんだよ」

 テーブルの向かい側から手を伸ばし、私の左手をつかむ遼ちゃん。

「どんなに大丈夫って言われたってさ。ずっとそばにいられないから」
「私だって不安だよ」

 遼ちゃんの周りには、いつだってステキな女性たちがいるから。そんなの仕事なんだもの、当たり前だけど。

「でも、遼ちゃんのこと信じてる」

 信じてる、と、言葉にすることで、自分にそう思わせたいだけかもしれない。それでも、言葉にしなければ、遼ちゃんには届かない気がして、遼ちゃんに掴まれた手にぎゅっと力をこめて、大きく見開いた目を見つめた。

「……だめだなぁ、俺って」

 苦笑いする遼ちゃん。

「いつまでも、美輪に甘えちゃうよ。でも、そんな美輪だから、俺も頑張れる気がする」
「ふふ。がんばって」
「俺、ちゃんと美輪のこと想ってるから」
「ありがと」
「……あーあ、戻りたくねぇなぁ」

まるで駄々っ子のような遼ちゃんだけど。それは口だけだってわかってる。

「兄ちゃんがまだ大学にいると思うから、来てもらうよ。だから、現場に戻って」
「あ、そうなんだ。だったら、ちゃんと、話したかったな。この前のこともあるし」

 そういえば、あの記事が出た後、二人はまだ顔を合わせてなかった。

「また機会があるよ。きっと」

 本当は、久しぶりに会えたから、もっと一緒にいたかったけれど、すぐに兄ちゃんにメールで連絡をしてから、遼ちゃんを見送った。






 いつも別れる時の、切なそうな彼の笑顔が、いつだって私の胸を痛くする。本当は離れたくなくて、ずっとそばにいたくて、行かないでって、声をあげたいくらいなのに、大人でいなきゃっていう、どうしようもなく冷静な私が、それをさせない。そんな私がいることを、きっと、遼ちゃんは知らない。

 ――あ。そういえば、誕生日のプレゼント、渡せなかった。

 タイミングがいいような、悪いような、そんな一日だった。