朝の通勤から、それは始まった。
 雑誌の記事についての噂をする女子高生。

『えー、誰よ、相模 遼の相手って』
『写真見ると、すごいスタイルいい美女っぽかったけど』
『もう、絶対、お持ち帰りしてるよね』
『あーん、私もお持ち帰りされたいよぉ』

 ……女子高生、すごい。SNSでも話題になって、検索ワードにまで出て来てる。
 聞きたくない。見たくない。そう思っても、それはダラダラと流れ込んでくる。

 大丈夫、大丈夫、大丈夫

 何度も何度も自分に言い聞かせ、そのたびに深呼吸。
 この状態が、いつまで続くのか、私の精神持つのか、とか、そんなことばかりが頭をよぎる。あんなに幸せな朝でスタートしたのに、一気に地獄だ。

「神崎、どうした?調子悪そうだな?」

 いつでも、気にかけてくれる笠原さん。

「あ、すみません。ちょっと、寝坊して朝ごはん食べなかったから、お腹すいちゃっただけです」
「はっはっはっは。そうか。じゃあ」

 机の引き出しから出てきたのは、いくつかの小さな四角いチョコ。

「ちょっと昼飯までもたないかもしれないけど、これでも食っとけ」
「ど、どうしたんですか、これ?」
「こないだコンビニによったときに、つい、懐かしくて買ってしまった」

 照れくさそうに言う笠原さん。

「えー、意外。笠原さん、甘いの得意そうに見えないんですけど」
「確かに、そんなに食べないけどな。まぁ、そんな時もあるってことで」
「へぇぇ」

 いただきます、とつぶやきながら、口に放り込んだ。

             *   *   *

 スキャンダル記事で騒がれる中、遼ちゃんは仕事以外のほとんどの時間を、自分の部屋もあるのに、私の部屋で過ごしていた。自分の部屋には着替えをとりに行くだけ。

 会社を出るころにL〇NEで連絡をすると、家に着く頃には玄関先で待っている。まるで帰りを待っているペットか何かみたいだ。私の顔を見て、優しい笑顔をくれる。この幸せな時間、いつまでも続けばいいのにって思ってた。

 でも、心の奥の冷静な自分がつぶやくのだ。

『今だけだよ』
『スキャンダルが落ち着けば、もとに戻る』
『彼が、ずっと、このままなわけない』

 部屋に来るたびに、求められ、何度、身体を重ねても、このつぶやきが消えることはなかった。
 そんな中、映画が公開になった。兵頭さんと共演した恋愛映画。
 案の定、話題性のある二人のためか、公開まもなくで、映画ランキングでも上位に位置した。恋人関係なのか、とか、お幸せですか、とか、インタビュアーが聞くたびに、さらっとかわしていく二人。

 ……映画の為の話題作り。
 そうか。そういうことか。

 なんか、大変なんだな。でも、これで、もう、落ち着くの……かな、と淡い期待をした私。