気分よく酔いがまわっていても、コンビニによって明日の朝食べるパンとオレンジジュースとミネラルウォーターを忘れずに買う。
 いけないとわかってても、歩きながらスマホをチェックしてしまう。遼ちゃんからメッセージがないか、確認したくなる。そういう時に限って、案の定、何もなし。寂しい。
 部屋につくと、スーツを脱いで、さっさとシャワー。さっぱりしたところで、Tシャツにステテコ。これが一番楽。短パンもはいてみたいけど鏡を見て悲しくなる太ももの太さだから。悲しい現実把握はしたくない。
 帰りがけに買ったミネラルウォーターを口にしながら、もう一度、スマホのチェック。じぶんでも懲りないなぁ、と苦笑いを浮かべる。

「もうこの時間じゃ、ないかな」

 そう呟いた瞬間、ピンポーン、と玄関先のチャイムが鳴る。
 まさか、と思って慌てて、ドアスコープを覗くと、見覚えのあるパーカー。急いでドアを開けた。

「どうしたのっ!?」
「遅くにごめん。どうしても会いたくなっちゃった」

 押し殺した声でそう問えば、どこかホッとした顔を浮かべる遼ちゃん。すっと玄関に入り込んで、私を急に抱きしめた。自分のではないお酒の匂いがする。

「飲んだの?」
「うん。少しね。」

 見下ろす彼の顔は、頬が少し赤い。瞳が、テレビで見るより、トロリと優しくて、唇が少しずつ近づいて、ぴったりと重なる。
 優しく触れた唇は熱く、少しお酒で甘さをましている。ゆっくりと、ゆっくりと味わうように食む、遼ちゃん。私は、キスの波に足をとられそうになる。まるで、泳ぐ人のように、呼吸が荒くなっていく。
 キスがこんなに気持ちいいなんて、と思うと同時に、こんなにキスが止められなくなるなんてと、驚く自分もいる。
 互いの唇が離れていくのが、少し寂しい。

「美輪さん、これ以上キスしてたら、僕、もう我慢できないよ。」

 遼ちゃんは、ぎゅっと私を抱きしめて、掠れた声で切なげにつぶやいた。

「ああぁ、このままセックスしたい」

 このまま押し倒されてもいいかも、と、心の奥では思ったけれど、恥ずかしいという思いがそれを素直に言葉にさせなかった。

「ごめん、こんな酔っ払いと勢いでなんて、嫌だよね。」

 大きくため息をつき、何かを思い切ったような顔をすると、私を見つめて微笑んだ。

「……遼ちゃん」
「僕も、せっかちなセックスよりも、時間をかけて大事にしたいもの。美輪さんの初めては。それに……今日の最大の目的を忘れるところだった」

 黒のパンツのポケットから、小さなベージュのフェルトの袋を取り出した。