電話が終わったのか、相変わらず蒸気した頬のまま、戻ってきた本城さん。

「ごめん、私、もう行くわ」
「なんだ、坂本からか?」
「うん、彼、今、仕事終わったみたいだから」

 ん? 坂本? 酔った脳みそでも、聞き覚えのある名前に反応。

「坂本って?」
「本城の彼氏」
「……えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 私の驚きの声にも、二人は無反応。

「ごめん、お金、明日でもいい?」
「おう、坂本によろしくな」

 慌てたように出て行く本城さんが、女子してます。女子。いつもの仕事出来る系ではなく、完全に恋する女子ですよ。

「……笠原さんと、付き合ってるんじゃないんですか?」
「誰が?」
「本城さん」
「……ぶっ」

 クククッと笑いを堪える笠原さん。店の中で大笑いされないだけ、マシだったかもしれないけど。

「ありえねぇぇぇぇっ」
「な、なんでですかっ! 本城さん、可愛いし、カッコイイと思いますっ!」

 全否定する笠原さんに、思わず力説する私。そんな私に、笑いを我慢しすぎて涙目の笠原さんが言った。

「いや、俺にも彼女いるし」
「……えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 今日二度目の絶叫。聞いてません! 聞いてません!

「そ、そうなんですかっ!?」
「まぁ、俺の場合、遠距離だけどな」

 そ、そうだったのか。呆然としながら、しげしげと笠原さんを見る。

「本城の彼氏は、この前、お前も会ってる坂本だよ」

 ふおっ!? マジですか。あの坂本さんと本城さん。二人が並ぶ姿を想像する。いや、坂本さんも、普通にいい人っぽかったけど。三人は同期ってことになるのか。

「あれはね、坂本の一目ぼれなんだ」

 悪巧みでもありそうな顔で、ニヤニヤ話し始める笠原さん。

「ほほぉぉぉっ」

 思わず身を乗り出してしまう。だって、初めての先輩の恋バナですよ?

「坂本が入社式の日に本城に一目ぼれしてな。まぁ、なんだ、俺が相談にのってたのさ」

 ふふん、と得意げにビールをあおる笠原さん。

「あいつらもなぁ、そろそろ結婚とかいう話はないのかねぇ。お兄さんは心配だよ。」

 偉そうに言ってはいるけど、楽しそう。

「本城もなぁ、仕事が楽しくて仕方ないみたいだし。タイミング逃さなきゃいいけどなぁ」

 本城さんが出て行った出口のほうを心配そうに見てる姿が、本当のお兄さんみたいだった。そういう笠原さんは? というツッコミは我慢した。

 結局、本城さんが出て行って三十分もせずに我々も店を出てしまった。

「明日もあるから、さっさと帰って寝ろ」
「はーい!」
「気を付けてな」

 私にも、やっぱりお兄さんみたいな笠原さんに、大阪の兄ちゃんのかわりに、パワーもらいました!