* * *

しばらくして、百合が教室から戻ってきた。


「ごめん、おまたせ……」


「うん。遅かったな」


「黒崎君は?」


「……先に帰った。色々あってな」


「そうなんだ……」


景太は百合の様子を見て、彼女の目が腫れていることに気がついた。


「百合……泣いた?」


「……ううん、泣いてないよ」


景太は心配そうに尋ねた。しかし、百合は何も言わなかった。


「そっか……何かあったら俺に相談しろよ。幼なじみなんだから」


「幼なじみ……だからなの?」


百合はか細い声で景太に尋ねた。


「幼なじみだから……優しくしてくれるの?」


「百合……?」


「答えて、景太」


「……そうだよ。」


景太は短く答えた。


「幼なじみだから……困ってたら心配するし、助けてやりたいって思う。いつも一緒に居て、いつも一緒で……今までだってそうだっただろ?」


「もう昔のままじゃいられないの!」


百合の突然の怒鳴り声に、景太は驚いて言葉を失った。

百合の顔は、涙で濡れていた。


「……ごめん。やっぱりもう一緒に居られない」


百合はそう言うと景太を置いて走り去ってしまった。


「百合!」


景太には、百合がどうして泣いていたのか、どうして一緒に居られないのか分からなかった。

昔から、それなりに喧嘩してきた。ぶつかり合って、泣かせ合って、それでも仲直りしてきたのだ。


(もう、戻れないのか……?)


そんなの嫌だった。百合と一緒に居たかった。それすらもう叶わないのだろうか。

そもそも、どうしてこんなにも百合と一緒に居たいのだろう。


──幼なじみだから



自分で言った言葉が酷く胸に突き刺さって、血が出る位に痛かった。


(俺……どうしたらいいんだ?)


景太は1人、力無く立ち尽くした。