本当ならば、母はもっと幸せになれる人だった。
ご両親が事故に遭わなければ、きっと高校にも行って大学にも行けたかもしれない。

上品で教養のある人だから、専業主婦だけじゃなくて違う道もあったかもしれない。
だから母がこの話をして花のような笑顔を浮かべると、俺は少しだけ悲しくなる。

しかし、その話を聞いた時真っ黒な瞳に大粒の涙を浮かべていたのは城田さんの方だった。

「わ!わあ!し、城田さん!?
ちょ、大丈夫? お母さんもお父さんも初対面の人にあんまり重い話しないであげてくれよ…
困るだろう…」

「あ、ああ。」

「そ、そうね。香ちゃん、ごめんね。こんな暗い話しちゃって」

ハンカチを彼女の方へ差し出すと、ぽろぽろと涙を零しながら首を横にぶるぶると振るう。
てのひらで涙を拭うと、城田さんは母に向かって真っ直ぐと向き直った。