「私ね、小さい頃に両親を亡くしてしまって…
今は血の繋がった肉親と呼べるのは北斗くらいなのよ」

「え?」

「兄弟もいなかったし、親戚の付き合いもなかったから。
高校への進学は諦めて、お弁当やさんでアルバイトしていた時に、大学生だったお父さんに出会ったの。」

「ああ、懐かしい話だ」

父の瞳が優しく揺れる。  小さい頃から何回か聞いた事がある母の生い立ちは、何度聞いても胸が痛くなる。

「そうだったんですね……だから…私知らなくて…」

「香ちゃん、私がお母さんに一目惚れをしたんだよ。
毎日毎日笑顔で頑張っている彼女を見てね、なんて綺麗な人だろうと思ったんだ」

「あなたったら……。
大学生だというのに、結婚してくださいって。 今になって思えば笑っちゃう。
後から阿久津フーズファクトリーの息子だって聞いて驚いちゃったの。
それでもお父さん、私の境遇を聞いても、僕と家族になってくださいってプロポーズしてくれて
家族はまた作れるよって。僕と一緒に家族を作りましょうって言ってくれて…あの時は本当に嬉しかった。

それから北斗も産まれてね。両親を失ってから私ずっと天涯孤独なんだなあーって思っていたのに、お父さんの言うように家族をたとえ失ってもまた新しい家族が作れるって
気が付いたのよ」