会話らしい会話すらした覚えもないのに。
三人で会ったのも一回だけで、愛莉さんの話を智樹が相槌を打って聞くのを眺めるだけだった。
(笑える場所なんて、無かった……)
けれど愛莉さんの声は段々と弱々しくなり、痛みにやっと耐えているように辛そうだ。
「私も馬鹿だったんです。おかしいでしょう? 二人の事を疑うなんて恥ずかしいって、自分が我慢すればいいなんて思ってしまって。……でも、あなたには、同じ思いをして欲しくないんです」
自分がかつて思った事をこの人に口にして欲しく無い。と、強く思う。
一緒にしないでと。勝手かもしれないけれど、それは私の科白だと、心が彼女を、その言葉を拒絶する。
けれど意を決したような愛莉さんを、河村君は相変わらずの無表情で眺めていた。
(河村君がどんな反応をするのか怖い──)
けれど、繋いだ指先が温かくて、ここにいていいのだと言われている気がして、何故か彼は……大丈夫なのだと思えた。
どこか緊張した空気が流れる中、隣からふっと笑い声のような吐息が漏れた。



