一体何に泣いてるのかと、詰りたくなる気持ちと、慰めたくなる衝動が身体の中でないまぜになる。
彼女の涙には不思議とそんな説得力があって。
「……そうですが、あなたはどなたですか?」
正面に立つ河村君が首を捩り、愛莉さんと目を合わせた。
「あの、私は雪子さんと友達だったんですけど……」
そこまで話して彼女の瞳に溜まった涙がぼろりと溢れた。
「し、信じてたのに……ゆ、雪子さん……私の彼氏と浮気して、彼は出て行っちゃったんですっ」
女優も真っ青の演技力に言葉も無い。
嘘だと叫びたいが、こちらの方が場違いでは無いかと思う程、その科白に説得力を感じる。
「あ、ごめんなさい……私、西澤愛莉っていいます」
指先で涙を拭い、河村君を見上げる愛莉さんの瞳はまだ潤んでいて、私の心は重く沈んでいく。



