「別れよう、愛莉」

「え」

 どこかで決めてた言葉を口にすれば、愛莉は目を丸くしている。でももう、その姿を可愛いと感じるより──

「もう俺たちは無理だよ。毎日こんな事を続けてたんじゃ、お互いの為にならない。離れた方がいいよ」

「……智樹、どうしてそんな事言うのよ? いつもみたいに謝ってくれたら、私……許すのよ?」

(……もう謝るのにも疲れた……職場で気を張って、謝って、頼んで……家でも謝って、お願いして……俺、そんなに駄目か? 何も出来ないか?)

 そしてこんな思いがいつまでも続くと思えば、即座に無理だと断ずる。

「悪い」

 それだけ言って家を飛び出した。

「やだ智樹っ、待ってよ!」
 愛莉の必死な声を振り払うように、急ぎ、歩く。
 明日も会社だ。通勤の支度の為に、一旦家に戻る事になる。
 
(けど、あの家にはもう、帰らない……)

 何日経ってもきっともう覚悟は揺るがない。
 愛莉の泣き声が追いかけて来たけれど、振り向く事も足を止める事も無かった。