『前に会った事あるよね? 受験の時に教室が一緒で、席が隣だった』

『そう……でしたっけ? 緊張で全然覚えて無いです』

 元カレ、日向智樹とは大学一年生から知り合いで、三年生から付き合い始めた。
 最初は彼の好きな子の話を聞いてるだけの──友人だった。
 嬉しそうに幼馴染を語る彼。
 そんなに人を好きになるなんて凄いなあ、と関しているのも束の間。彼の一途な気持ちに私の心はあっさり捕らわれ、いつしか恋をしてしまっていた。

 自分の恋愛遍歴を見ても、大層なものは何一つ無い。ほんの少しの勇気も持てずに終わった恋がチラホラあるだけ。
 羨ましかったのもある。
 そんなに想って貰えるなんて、と。それが自分に向けられたらな、なんて……

 でも、無理矢理向かせた彼の視線は、やっぱり心からのものでは無かったようで。
 優しい彼ならと打算と期待で告白して、暫く困らせてしまった。
 けれどもう幼馴染の子を忘れたいからってOKを貰って嬉しくて……
 でも今考えたら喜ぶところじゃなかったのかもしれないなー、あれ。

(悪い事しちゃったな……)

 二年も付き合った。それで社会人になってすぐ、振られた。

(嫌だったかな? ……でも結果、一番好きな人が誰だか分かったんだからさ……)

 申し訳なさと悔しさが、ないまぜになって睡魔と溶けた。