「やっぱり幼馴染がいいんだそうです」
「あ?」

 ずばりと告げれば丸く開けた口から一文字だけ声が返って来た。
 ──何か段々雑になってきたな、この……警察官……だったっけ? 内心首を捻るも大らかな私は構わずに続ける。

「幼馴染の女に負けました」
「……」

 誰だっけこの面倒な話に付き合う事になったただの不憫なお兄さん? 何でこの人は私の話なんて聞いているのかな? しかも心なしか顔が怖い気がするのは、いい加減怒りのボルテージが振り切れたからなのかな。
 うん? 誰の話が面倒?! 何で私の話を聞くのが不憫なんだー、許さんぞ?

「──なんか頭痛くなってきた……」
「それは俺の科白だ……」

 心の底から脱力した声にふと顔を上げる。

(……あれ、この人誰だっけ?)

 けれど私が疑問を口にする前に男が僅かに動揺を見せながら口を開く。

「つまり振られたって事か……? それはお気の毒……だけど、まあ……なんて言うか……。
 けどな、そーだ。振られたヤケで酒飲んで滑り台で遊んでさ、遊具に吐いたらどうするんだ? 明日子供たちが使えなくて可愛そうだろう。それに別に──」

(があん!)

 何か続きを言ってたような気がするが、そんな事より──
 
(そこまで考えて無かった!)

「わ、私は……なんて事を……」

 ぷるぷる震えながら涙を流す私に横が男が焦り出すが、それどころじゃない。──吐くってあの吐く? 危うく子供たちの心に言いようの無いトラウマを作ってしまうところだった! しかも「あの滑り台汚いからもう滑らなーい」とか子供が話すところに、もし出くわしたら……無理だ……居た堪れなさすぎる……引っ越しすら考える事案だろう。

 私は拳を握りしめ、すくりと立ち上がった。