はっと息を飲む。
慌てて自分の口を押さえて後退った。
「あ、やっぱ覚えてた?」
にこにこ笑いながら出口を塞いで迫ってくる河村君には恐怖しかない。ぐっと掴まれた手首に身体が強張った。
「ねえ三上さん、以前俺とキスしたよね」
「……」
私は唇を噛み締めた。
あれは……事故だ……
『サークルの飲み会、三上さんもおいでよ』
『そうだね、おいでよ』
大学卒業の半年程前の事。
にこにこと声を掛けてきた河村君に釣られて同じサークルの女子部員の亜沙美さんにも誘って貰った。
たまに顔を出すだけなのに、いいのかなあ……なんて思いつつ。やっぱり嬉しくて、うんと返事をしたんだけど……
『参加するけど、その日は早く帰るから送れない』
眉根を寄せる智樹を見て、やっぱり断ろうかと思い直した。
『じゃあ、あたしが送ったげる! 三上さん同じ電車だしね!』
少しばかり重くなった空気を振り払うように、亜沙美さんが元気に申し出てくれて。
押し黙る智樹よりも、明るく受け入れてくれた亜沙美さんの誘いを断りたくなくて、私は飲み会に参加したのだ。



