触れるだけのキスをした後、間近で見つめ返す眼差しが、切なげで。胸が痛くなった。
 けれど、だからこそ羞恥が込み上げ、慌てて視線を逸らす。
 
 もう何度も来ている貴也の部屋で、いつもと違う事をしてしまい、居た堪れなくなり、指先が落ち着かない。
 お尻の下のクッションをいじりながら、熱を持ち始める顔を背けた。

「雪子?」
 戸惑うような声音に改めてそちらに視線を向ければ、すぐ近くにある貴也の瞳が不安そうに揺れている。
「あ……」

 口元を押さえていた手の甲をどかし、雪子は視線を彷徨わせた。
「違うの」
「違うって何が? 嫌だった?」

「違う……」
 言いかけて、違うしか言ってない自分に気付いて項垂れてしまう。
 嫌じゃない。
「そうじゃ、なくて」
「言って、雪子」

 そう言って貴也は雪子の両手首を掴んだ。
 辛抱強く待つ眼差しで、けれどどこか、言わねばならない意思を見せながら。雪子を見据える。