「……三上さん……?」
 彷徨う河村君の手が諦めたようにゆっくりと降ろされるのを見届け、私は観念したように口を開いた。

「私は……河村君の事が好きなの」

 はっと息を飲む河村君を見ながら、必死に涙を堪える。ここで泣いたらきっと河村君は甘やかしてくれるように思う。でもそんなの、お互いに気まずい思いを残すだけだ。

「だから、優しくしないで……きっと私は甘えて縋ってしまうから……河村君を、困らせちゃうから……」
 ぶんぶんと首を振る。
 そうして精一杯気丈に振る舞った表情で顔を上げ、明るい口調を心掛けた。
「だから、ごめん! さっきの言葉は無かった事にして! ホテルならセキュリティ面は問題無いし、いつでもフロントに人がいるしね!」

ぽかんと口を開ける河村君に早口で捲し立てて……急に恥ずかしくなって、踵を返した。